パルパルパピヨン’s diary

なんでも書くのです。

表層模倣と深層模倣

模倣は人間の発達において言語習得や動作の獲得など重要な役割を果たします。つまり、人は生きるために模倣を行う訳ですが、研究史における模倣についての議論は一般的に世論に浸透していないのではないでしょうか。今回は模倣を表層模倣と深層模倣とに区別し、論じます。

表層模倣とは、他者の行為の結果をそのまま写し取ろうとする行為をいいます。教師役が手取り足取り動作の方法を教え、子どもはその再現をそっくりそのまま行います。子どもは素直な心で先生役の言う通りに言語(例えば、漢字)や動作(例えば、跳び箱)を習得するでしょう。この点、子どもの習得能力には感服させられます。

一方、深層模倣とは、他者の行為の原因まで考慮しつつ、行為を身に着けようとする行為をいいます。子どもは他者のお手本をじっと見て、自身も試行錯誤しながら他者の行為世界に入り込もうと努めます。

両者の例として、跳び箱の例とチンパンジーの例を挙げます。表層模倣をして育った子どもは、年齢に見合わない飛びぬけた能力を持っているように映ります。なんと、6才で跳び箱の12段を跳ぶ子もいるようです。表層模倣の場合、跳び箱を飛ぶためのエッセンスを教師役から教え込まれ、子どもはそのまま再現し、動作を反復します。つまり、跳び箱についてあまり深く考えることはなく、見かけ上の動作の習得に精を出すということです。それに対して、深層模倣を行うチンパンジーは動作の習得にかなりの時間を要します。アフリカのボッソー地区のチンパンジーはアブラヤシの実を石で割る習慣がありますが、アブラヤシを石の上に乗せ、他の石を手に取って、振り落とし叩き割るという行為は、極めて複雑であり、習得するのに何年も時間がかかるそうです。チンパンジーは、先述の子どもの例のように先輩チンパンジーの行為をそのまま写し取って、割る行為を試みるのですが、なかなか上手くいきません。人間のような言語伝達能力や教育はチンパンジーにはないため、ヤシの実の中身を食べるには、自身で割り方を身につけるしかありません。

そこで、チンパンジーは少し離れたところから、先輩チンパンジーのヤシの実を割る様子を観察します。先輩チンパンジーがヤシの実のどこを見て、どのように石に押さえつけ、どのように打ちつける石を振り上げ、ヤシの実のどこにあてるのか…などなどをつぶさに観察します。つまり、行為者の意図を含めて理解しようとするのです。だから、「少し離れて」見る必要があるのです。

私は模倣において重要視すべきは習得するまでに時間は要しますが、深層模倣だと考えています。なぜなら、意味世界(例えば、跳び箱やヤシの実の割り方)を正に理解しようとする行為だからです。表層模倣では見かけ上の行為の習得が目標となるため、自発的な学びの発展は起きにくいですが、深層模倣は意味世界に住人として入り込み、探求する営みですので意味世界のさらなる広がりが期待できます。例えば、深層模倣で跳び箱を習得した子どもは、その動作の共通性を逆上がりの踏み切り時に気がつくかもしれません。表層模倣では、跳び箱の動作は跳び箱に限定されたものだとしてしまい、このようなことは起こらないでしょう。子どもが自ら学ぶ力をつけるために、「ミテテ、ヤルヨ、ホラネ」というような教化的なかかわりを見直す必要があるのではないでしょうか。